現地での対話を通じてこそ社会課題の本質が見える
留職先リーダーとの対話を通じて、現地が本当に求めるシステム開発に取り組む
パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 ストレージ事業推進室 開発グループ 廣瀬良二さん
パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 ビジネスソリューション事業グループ 佐藤佳子さん
インドネシア 環境/エネルギー

インドネシアの村落部のコミュニティと共に水力発電を運営するNGOでシステム開発に取り組んだパナソニックのチーム。単なる提案に終わらずに実際にモノを作って残してくると、エンジニアとして成果にこだわり、留職先リーダーとの対話を通じて価値観の違いや限られたリソースを乗り越え、目標を達成した廣瀬さんと佐藤さん。ご自身の言葉で綴って頂いた経験談をご紹介します(本文全般が廣瀬さんによるご執筆、最終項目が佐藤さんとなっています)。
プロジェクト基本情報 - パナソニック株式会社
- ■留職者:
- 廣瀬良二さん (当時35歳) 、佐藤佳子さん
- ■所属:
- パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 ストレージ事業推進室 開発グループ 、パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 ビジネスソリューション事業グループ
- ■留職先:
- インドネシア(ジャカルタ)
- ■留職期間(現地):
- 2013.10-2013.11(1ヵ月間)
- ■受け入れ先団体:
- コミュニティをベースとした小規模の水力発電を運営するNGO
留職への応募、そして現地派遣まで
社会的活動の中で試したかった自分のスキル
留職プログラムに参加しようと思ったのは、今後、仕事をする上で、「社会的に望まれる事、必要とされるスキルは何か?」という事を考えた時に、社会課題に全面的に向かって活動されているNGO団体の活動に興味を持つようになったということがあります。
社内でのBOP市場に向けた研究会等を通して、留職プログラムを知り、日本と異なる土地・場所・メンバーで活動するプログラムが、自身の経験を豊かにし何か得られるものがありそう、仕事の価値を高められそうといったところに魅力を感じました。
留職先の選定については、クロスフィールズと相談しながら、自分のスキルやキャリアを棚卸しし、留職先のマッチングを行えた事で、当初抱いていた「直接的に社会的活動を行う団体で自分のスキルが活かせるのか?」という不安が解消されましたので、有難く感じています。
渡航前から準備~実際にモノを作って形を残したい

よくありがちな「提案だけして終わる」という様なやり方を避けたかったという思いがありました。
ですので、プロジェクトの成果として実際にモノを作って形も残してくる事にこだわりました。今回の留職では、電力の自動測定システム(装置)を開発・設置する事を目的としましたが、現地での活動時間が少ない事は事前に分かっていたので、日本でほぼ完成させて行く方法をとっています。私には直接的なスキルは無かったので、社内の有識者や以前に現地に赴いたメンバーからの意見や指摘を頂きながら実際に動くものを作っていきました。
現地で変わる価値観と、見えてくる課題の本質
いよいよ現地へ、苦労の連続

最も苦労した事は「どのような課題があって、どのような貢献が現地でできるのか?」という基本的な問いを立てる事でした。先ず、事前のNGOとのコミュニケーションの中で、現地課題の掘り起こし・設定・具体的なアクションの設定を行いますが、単発的なメールや電話でのやり取りとなってしまう面もあり、後で振り返ると、こちら側で設定した仮定が多かったように振り返ります。
現地に赴いてからは、実際に活動できる時間や、自分のスキル、現地のリソース、異なる文化など、様々な制約がある中で、現地国やNGO団体へ何を成果として残せれば、喜んでもらえるかという活動の方向の設定に苦労しました。課題設定の難しさに対する解決策として、いつも仮説を持ってNGO団体と議論を行うということが必要で、対話やフィールドの体験を通じて共通に納得していくようにしました。
生活の全てを共にし、苦労を乗り越える

その際、自分が心がけたことは、普段の生活以上に相手の価値観を受け入れること。積極的に文化や慣習に接しようと努めました。また一方で、私の事も分かってもらう為に自分の事も話ようにコミュニケーションを行いました。
やはり現地NGOと朝から夜まで同じ仕事場にいて、寝食も共にし、フィールドワークにもご一緒させて頂きながら、一緒に考え・行動することを通じて、現地の視点でモノコトを考えるようになったと思います。
NGOのリーダーから感じる強烈な「想い」
価値観の変化、「あげる」から「パートナー」へ

「日本から行くので」現地に行って教えて「あげる」という考えを持っていたのですが、現地に行ってからその考えが変わりました。むしろ現地NGOのメンバーや代表の方から、社会的活動を行う上での考え方やチームの動かし方・働き方を学ばせて頂いたと思っています。
彼らこそが本当に課題をじっくり見て感じ・考えて解決に向かって活動をしています。我々はそこに別の1つの方法を持ち込んで協議できるかというだけであり、その持ち込んだ方法によって課題が解決できるかどうかは現地を知っている人でなければ判断出来ません。彼らを、「パートナー」として考えることを学びました。
対話を通じてこそ、本質が見える
もう一つ反省すべき事として、現場の情報を自身で感じ考えることの重要性を認識したということです。特に、その場所で熱意を持って活動している人との対話こそが、社会的な課題の本質を捉えていると思います。実際の体験を通じて得たモノは、教えられたり、書類を読んで考えるのとは違うのだと感じます。言葉にすると淡白ですが、現地での活動を通じて得た大切なものです。
留職先リーダーのシンプルな“志”に感動する

留職先団体の方の言葉で印象に残っている言葉が2つあります。
NGOの代表に対して、何故、NGOとしての活動をされているのかという私からの問いかけに対して、「困っている人がいたので、私に出来る事をしたかった」というシンプルな答えが返ってきたことです。学生の頃にその思いを抱いたという事だがその志の違いを感じると共に、広範囲で深い活動をされている実態から、研ぎ澄まされた思いの大きさを感じました。
もう一つは、NGOの幹部の方から言われた言葉です。私が安定したシステムを導入するため、特定企業と一緒になって製品開発を行う提案をしてみたところ、「受け入れが難しい」との回答をもらいました。その中で彼らは彼ら自身の「行動哲学」に基づいて動いているというコメントをしていました。「自分たちのコアスキルに専念する」「意思疎通を透明にするために組織は拡大しない」「ポリシーが異なる企業とは一緒に仕事をしない」など、一貫した哲学(フィロソフィ)があると感じました。社会的に認められている活動の背景には、元をたどると皆が共感出来る哲学があり、そのフィロソフィを理解するが彼らと一緒になって仕事をしていく上で、必要なことだと思います。
今後のキャリアと新たな目標
現場感とネットワークの力
問題の本質的なところを知るには現場での活動が必要ということ、またその活動を有意なものにしていくには現地や日本を含め広範囲なネットワークを生かして行くのが効果的なのではないかと思いました。今回の留職の活動で、そのことを深く感じると共に、仕事の上でも何事も仕事をする自分達が「現物」を見ること、そして広く周りを見渡して「繋がり」を活かすことを心掛けたいと思います。
「わかろうとする」こと自体がチャレンジ
また、今までの自分の生活を振り返ると、まだまだ「従来のやり方」に囚われ、お客様の目線で価値のある活動ができていなかったと感じます。やはり現場で感じ考える課題の解決が実際の価値になるのだという考えを新たにしました。
携わる人びと、お客様の視点で価値のある行動や仕事・活動になっているか?という事は自分で閉じて分かるものではありませんし、わかろうとするチャレンジこそが本質を掴む為の行動になります。その考えを持って様々な仕事の仕方にチャレンジして行きたいと思えました。振り返ってありがとうございます。皆様に本当、感謝です。
参加者の声
パナソニック株式会社 AVCネットワークス社 ビジネスソリューション事業グループ
佐藤佳子様

“日本から支えてくれたリモートチームとインドネシアでの新しい絆に感謝”
以前から青年海外協力隊に応募したこともあり、またスタディツアー等で他の新興国で活動をした経験もあり、今回も同様に興味を持ちました。
毎年何か一つ挑戦することを決めていたので、今回は「留職プログラム」を見つけ今年の挑戦にしようと思いました。休暇を利用して社会貢献と共に自分のスキルアップに繋げられるのは、とてもいい機会だと思います。
渡航前の準備期間では、現地団体とのコミュニケーションは非常に困難でした。そのため、準備した仮説が現地で見直しにもなりました。また、渡航後も現地の方の英語に聞きなれず理解に苦しみましたが、怯まず、積極性を忘れないように努力し、徐々にコミュニケーションも取れ、順調に活動を進めていけるようになりました。
そして、NGOのメンバーとPMI(Panasonic Manufacturing Indonesia)でワークショップが実現できたことは、私にとってとても感動的でした。会社からの派遣とはいえ、現地関係会社への伝手はなく、渡航前から沢山の方を巻き込み、現地に人脈を作り実現することができました。私たちの活動を理解し、無条件に無電化の村への冷凍庫を提供してくださったPMIの御厚意には頭が上がらないほど感謝しています。また、それに応えるようにNGOの方々も協力して冷凍庫を受取り、村へ設置して下さった共同作業は今後の絆を感じることができました。
活動の中で自分が大切にしていたのは、楽しむこと、笑顔でいることでした。現地の家庭や片道車で13時間の無電化の村での生活は想像していた通り大変なものでしたが、普段はできない経験と思い楽しむことができました。また、リモートメンバーには渡航前から渡航中に多くの時間を割いて協力し、支えて頂き、一番感謝しています。彼らがいなければ成しえなかったことですし、彼らの思いを形にしたいと思いました。とてもすばらしいチームで活動できたと思っています。挑戦してよかったと心から思います。今回の活動を通し、どれだけ人を巻き込んで前に進めていくか、どれだけ諦めないか、そして現地人の話を聞き、相談し、現地人に選択してもらうことが大切だと感じました。
最後に、貴重な体験、貴重な時間、貴重な出会いを頂いたことに感謝致します。ありがとうございました。
パナソニック株式会社 AVC社 リーガルセンター 情報セキュリティT 渡辺久晃様

今回の活動では、現地に赴いた廣瀬さん・佐藤さんの他に日本で二人を支えるリモートチームの存在がありました。「毎日のように夜遅くまで打ち合わせしてくれた、日本のメンバーに感謝しております。そこで得た情報・気付きは多いです、さらにそこから広がって2次・3次のネットワークを広げつつ皆様から様々な面から助けて頂きました。このチームでの活動が無ければ当初描いたよりも小さな単位での貢献に留まっていたと思います。」とメンバーへの感謝を述べる廣瀬さん。今回は、そのリモートチームメンバーの一人である、渡辺久晃さんに「参加者の声」としてコメントを頂きました。
<渡辺久晃様コメント>
参加しようと思ったきかっけとしては、自身のスキルを生かし、自身の価値を高めたいと考えていました。また、過去の国内NPOの支援を通してNPOの方々の熱い思いや活動に大変刺激を受け、PIVOTプログラムに応募しました。留職かリモートチームかは悩みましたが、若い人を支援する立場で参加しようと思いリモートチームを選択しました。短期間の活動でありましたが、個人的にはNGOが喜んでもらえる現実的な結果を生み出すことに拘っていました。そのためには、留職メンバーが現地に旅立つ前の準備が勝負だと感じ、できる限り情報収集に努めました。こうした情報をメンバーと共有しましたが、最終的な取捨選択は主に留職メンバーに任せました。メンバー間で意見が合わないことや、間際の間際まで納めたシステムがうまく動かないこともありましたが、コミュニケーションを重ねることで、メンバー全員の協力で何とか乗り切れたと思っています。留職メンバーも苦労したと思いますが、彼らの最後の笑顔がチームとしての成果を物語っていると思います。
担当者の声
クロスフィールズ プロジェクトマネージャー 嶋原佳奈子

日本で活動を支援するリモートサポートチームとの一体感のあるチームワークで団体の期待を超える成果を上げてきた廣瀬さん、佐藤さん。高い専門性を求められる業務内容に対しても、「提案だけで終わることはしたくない」と形として残る貢献にこだわりました。現地に入りこみ、状況を肌で感じてみないと見えないものがたくさんあると二人口を揃えて語り、短い期間でも社会起点の事業に対しアンテナ高く現地活動に臨んでいました。留職先からも「約1ヶ月という短い期間で複数のスコープに挑戦する姿勢には驚いたし、期待以上の成果だった」と評価され、まさに日本の技術者の力を存分に見せた留職活動となりました。