NPO法人クロスフィールズでは、新興国の留職プログラムでグローバルに活躍できる人材の育成、企業・行政の新興国進出を支援します。

「社会課題の現場での原体験」が起こす、コレクティブ・インパクトとは。

開催レポート

大企業の主に若手リーダー向けに「留職プログラム」、幹部・部長クラス向けに「社会課題体感フィールドスタディ」など、社会課題の現場に向き合うさまざまなプログラムを提供しているクロスフィールズ。その参加者は2018年度をもって1,000名を超えました。「”社会課題の現場での原体験”を共有しているこのコミュニティだからこそ、何か生み出せるものがあるのではないか」。そんな想いから、2019年7月27日・28日、”Cross Fields Empowerment Gathering(CEG)2019”と題し、各プログラムの参加者が一堂に介するイベントを実施しました。

この場は、留職・社会課題体感フィールドスタディを導入いただいたPwCコンサルティング合同会社にスポンサーをいただいて実現したものです。クロスフィールズが提供するプログラムに参加いただいた大企業を中心としたビジネスパーソンと、そこで協働したNPOや社会起業家、またクロスフィールズに会員として関わってくださっているサポーターの方々など、総勢120名が清澄庭園という場に集まりました。

晴天に恵まれた清澄庭園。庭の美しい景色を楽しみながら、イベントが始まりました

一日目は主にインプットの場。コレクティブ・インパクトの理解、そして社会課題解決にチャレンジしてきたリーダーたちのセッションを通じて、主に大企業に所属する参加者がどんなアクションを起こせるのかについて考えを深めました。その後のディスカッションでは、セクターや組織の枠を超えて様々なアクションが創発される場になり、締めの懇親会まで議論の熱が冷めないまま、一日目が終了しました。

自分自身と向き合う二日目の始まり。参加者全員が円になってこの場を味わいます

たくさんのインプットを自己内省とアクションに繋げるべく、二日目はアウトプットをメインに企画。自分の今までとこれから、そして明日から実行していきたいアクションについて、コラージュや言葉で表した参加者は、改めて自身の未来について決意を胸に濃密な二日間を終えたのでした。

熱気にあふれ、クロスフィールズにとって決して忘れられない二日間となった、その様子をお伝えしていきます。

得たい未来”を描くこと、自分と他人を理解することが、
コレクティブ・インパクトの第一歩

”コレクティブ・インパクト”を理解するインプットの場として、日本におけるソーシャルイノベーションの第一人者である慶應義塾大学大学院特別招聘准教授の井上英之さんのお話からスタートした一日目。「コレクティブ・インパクトとは、立場もリソースも違う人たちが、社会課題を解決するという一つの目標に向かって協働すること。コラボレーションとは基本的に不快なものであり、そこを超えても”得たい未来”をどれだけ描けるかどうかが重要」と井上さんは語りかけます。

「大事なのは、自分と他人の理解。ある特定の目的に向かって協働する場合、問題を同じように見ているつもりで、自分のフィルターを通してそれぞれの見方をしているものなんです。それぞれが持っている知覚の特性・重要性に気づかないと、社会の情勢も正しく理解できないし、共通認識を持つことも難しいですよね。だから、協働する前にまず自分のフィルターを理解する必要がある。自分にどんなフィルターがあるか、その背景は何なのか?特定のトラウマか、職場環境の影響か…自分に気づくところから他者との接点が生まれ、他者理解から社会との繋がりが生まれていくんです」

コレクティブ・インパクトと自分自身との繋がりについて解説する井上英之氏

はじめはコレクティブ・インパクトと自己理解の繋がりがピンと来なかった参加者も、井上さんの言葉に、徐々にその意味を理解していきました。「今日は、協働して社会にインパクトのある結果を出すための方法論を、みんなで作っていこうという”旅”の始まりです」。自らが動き出す二日間にしようという一体感が、会場の熱気をさらに高めていきます。

足を運び、課題を自分の目で確かめて、
会社のリソースを力に。”社内起業家たれ”

続いて行われたのは、「自分・仕事・社会を繋げるということ」をテーマにしたパネルディスカッションです。井上さん・小沼とともにパネルに加わったのは、リクルートキャリアの初代社長であり、島根を拠点に全国の教育改革に取り組む一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表の水谷智之さんと、東京電力で執行役員として新規事業に携わったのち、東日本大震災をきっかけに復興に取り組む一般社団法人あすびと福島代表理事の半谷栄寿さん。大企業の中で社会課題に向き合うことを経験したあと、より深く課題解決に取り組むべく非営利の活動を立ち上げたお二人です。

大企業勤務時代の2人は、社内では「変わり者扱い」されていたとのこと。
「優劣じゃなくて、特性が認め合える環境、社会を作りたい。そんな強い想いがあり、クビになってもいいからやり遂げよう、という覚悟でやっていました。変態と呼ばれていましたよ(笑)」と語る水谷さん。「僕も異端と言われていました(笑)。でも、水谷さんや自分のやり方が異端と言われるのは、自分のやりたいことの先に社会課題解決があること、それを何としてでもやりきるという想いがとにかく強いからじゃないかな。原子力事故から8年経って、もともとの人口の10分の一しか暮らせなくなってしまっているこの街をどうにかしたい。それは死ぬまでやらなきゃいけない自分の役割だから。」と、半谷さんが加えます。

「なぜ諦めずに想いを持ち続けられるのか?」という質問に、水谷さんは「疑問を持ち、外に出ること」の重要性を訴えました。「高校時代、問題だらけの学校にいました。そこの学生だというだけで、社会の大人が僕らを見る目が変わり、自分たちはひねくれていくというサイクルを味わったことが原体験にあるんです。大人はそのサイクルを作り出していることに気付いていなかった。ある時、そんな風に、”気づいているけど見ていないもの”があるんじゃないかな?と思うようになって。そこに気付いてからは、本当にこれが問題?本当にこれがやりたかったんだっけ?と、突き詰めて考え、足を運ぶようになりました。リクルートの枠を超えて、言わば1人留職です(笑)。外の世界に勝手に留職するようになってから、自分の事業と、社会の見え方がガラッと変わりました。」

自らの原体験を語る水谷さん。「異端であってもいい」という言葉は、多くの参加者に勇気を与えました

最後は半谷さんから、大企業に勤める参加者へのメッセージ。「個人として何かを作るよりも、社内起業家として、企業が持っている技術力や組織力を使って、社内リソースを使って何かをやるほうが社会に対するインパクトを出しやすい。僕らの時代はそれが異端と呼ばれたが、今の皆さんは逆に会社にそれを期待されているから、チャンスじゃないかな。皆さんが会社のリソースを使って事業を起こせるのは、とても価値ある立場です。最終的に会社の価値を戻せばいいのだから、リソースを使ってインパクトを出してください。最後に…”社内起業家たれ!”

この言葉には、多くの参加者が刺激を受けたようで、「自分-仕事-社会が繋がっていないと感じること自体がスタートラインであり、エネルギーになる」、「会社はリソースに溢れているというメッセージで、会社で働くことへの感じ方が自分の中で変わった」といった感想の言葉が聞かれるなど、まさに「自分・仕事・社会の繋がり」を掴む大きな一歩となる時間になりました。

半谷さんの力強いメッセージで、会場は「自分にも出来るかもしれない」という期待で溢れます

「何かがここから生まれるかもしれない」。
ワクワクと可能性が広がる経験

一日目前半のセッションで大いに刺激を受け、自らもアクションを起こしたい熱量が高まった中で始まった、夕方からのグループディスカッション「Collectiveに未来を創る~Collective Impact実践に向けて」。クロスフィールズのプログラムで協働した社会起業家のほか、大企業において変革を起こしたいと動き始めているプログラム参加者など、計12名の方が「イニシエーター」として、事前に持ち寄ったテーマについてピッチを行いました。

特別ゲストとして、これまで4人の留職者を受け入れるなど、複数のプログラムで協働しているベトナムの社会的企業、Fargreen CEOのTrang Tranがこのイベントのために来日。2016年にインドネシアに留職した日立製作所の江本州陽さんからは「NPO×企業だからこそできる事業性の高い社会課題解決ビジネス」、ルワンダで活躍するSAMURAI INCUBATE AFRICA 寺久保拓摩代表からは「アフリカ・スタートアップ支援~日本企業が出来ることとは?~」、難民問題に取り組むNPO法人WELgeeの渡部清花代表からは「難民支援について、民間企業ができること」など、国内外の社会課題から、大企業変革のためのアクションまで幅広いテーマが投げかけられました。参加者がそれぞれ興味を持ったテーマを選んだ上で、総勢120名でのディスカッションがスタートします。

NPO法人WELgeeのディスカッションでは、渡部さんに加え、難民として日本で暮らす女性も会場に来て、「なぜ自国を出たのか、どんな経緯でWELgeeと出会ったのか」のプロセスや難民を取り巻く現状について話をしてくださいました。高いスキル・経験と素晴らしい視点を持つ彼女に触れて、「難民」という言葉でそれぞれがイメージしていた姿と実態は全く違っていたことに気付いた参加者たち。他人事だったこの問題が、一気に「自分事」になり、民間企業として出来ることについて、幅広いアイデアが集まります。

NPO法人WELgeeのディスカッションの様子。社会課題が自分事になっていきます

「新しく出会った企業のみなさんとの次のステップが芽生えそうでワクワクしています」と語った渡部さん。参加者からは、「”何かがここから生まれるかもしれない”ということを感じられた。違う業種の方といろいろな意見を出し合い、可能性が広がっていく体験は、まさにコレクティブインパクトの実体験」「自分自身、あまり社会に役立つ知識やスキルはないと思っていましたが、ワークショップを通じて、自分のスキルやノウハウが、他の分野にとってアイデアのきっかけになることもあると再認識しました」と、学びに溢れる時間に興奮する声が多数寄せられました。

自分の人生の今までとこれからをコラージュで味わう。
Life as a River

二日目は、全員が輪になってチェックインを終え、たくさんの書籍や雑誌から気になる写真を切り抜いて集めていくところから、「Life as a River」がスタート。自分の人生のストーリーを川になぞって作品をつくるコラージュワークです。4人チームで発表し合い、それぞれがそのコラージュに表現された要素をさらに深掘りする質問をしていくことで、潜在的に現れた自分の想いにさらに深く気づいていきます。

紙をはみ出す人から絵を描き出す人まで、個性豊かなアウトプットを全員で「鑑賞」した後は、特に注目されたコラージュを作成した参加者からの発表。
2018年末から、経済産業省「未来の教室」の実証事業として実施した学生起業家向け留職でインドに派遣されたSAgri株式会社代表取締役社長の坪井さんは、一際カラフルなコラージュで目を引きました。

Life as a Riverの発表シーン。個性的かつ想いのこもったコラージュに視線が集まります

無意識に持っていた願いがこうしてアウトプットされることで具体化することって結構あるんです。このワークで見える化されたことで、その願いが意識されるから。なので、今日はその想いの実現に向けた第一歩。皆さんがここで表現したことを、大事に心の中に持っていてください。」

井上さんのその言葉で、参加者は改めて自分が作ったコラージュワークに表現された未来に想いを巡らせます。

「私たちだからこそ出来ることがある」。
ワクワクと熱量が止まらない、マイプロジェクトの発表

最後は、この二日間の学びを経て、自分がこれから実現したいことや気になるテーマについて「プロジェクト」として宣言する、「マイプロジェクト」というワークを行いました。

全員が「プロジェクト名」「気になるテーマ」「どうしたら実現または解決するか」「ワクワクするポイントは何か」を書き出し、4人のチームで共有。その4人のプロジェクトの中から、さらに一つにまとめるか、一つを選んでさらに深掘っていきます。

あるグループは、「社会課題の現場での原体験」を持つ自分たちだからこそ大企業で出来ることについて発表しました。

マイプロジェクトの発表では、共感と笑いに溢れて大いに盛り上がりました

「プロジェクト名は”熱中病サラリーマン”。僕らは、熱はあるけど社内起業家まで至っていない、言わば熱中病サラリーマン”なんです(笑)。一方、社内にはたくさん冷めたサラリーマンがたくさんいますよね。

でも、今日気がついたのは、彼らにとって社内起業家は遠い存在かもしれないけど、僕らは『親近感を持ったり、助けたいと思ってもらえる存在』なんじゃないかと。自分たちが何か目標を持って、熱中病な状態でもがき苦しんでいる状態を、冷めたサラリーマンに見せることで、『仲間になりたい、一緒に何かやってみたい』と思ってもらえる可能性があると思うんです。

そして、ありがとうという言葉を返してあげることで、彼らも勇気を得て、憧れの連鎖を生み出していけのではないか。だから、この『モヤモヤしつつもがいている背中を見せるプロジェクト』をやりたいんです。自らが成長するのも大事だが、他の人も置いていかない。そんなプロジェクトをやってみたい」

明日から実現したいビジョンとそのための行動、そしてそれを応援してくれる仲間を得て、参加者の表情は充実感に満ち溢れていました。

二日間を通じて見えたもの。
クロスフィールズにしか出せない価値

初めてのチャレンジとなる怒涛の二日間を終え、クロスフィールズメンバー全員が感じたのは、自分たちが創りあげて来たコミュニティの、想像以上の価値と可能性。「人材育成の場を提供する組織と参加者が、こんなに素晴らしい関係性を創れるのはクロスフィールズだけだ」という半谷氏のコメントに象徴されるように、クロスフィールズだからこそ、そして”社会課題の現場での原体験”を共有した仲間だからこその繋がりとエネルギーが、確かにそこにありました。

「集まっている人たちのなかには、悩んでいる方もうまくいっている方もいる。それもひっくるめて、彼らの存在そのものが、クロスフィールズの成長と日本社会の変化を表している。この国の未来にはまだまだ希望があるな、と嬉しくなった」―――事後のアンケートでは、参加者の方からこんなコメントを頂きました。8年間積み重ねてきた価値、”社会課題の現場での原体験”を持って前に進む素晴らしい仲間たちと一緒に、きっと私たちは、「すべての人が『働くこと』を通じて、想い・情熱を実現することのできる世界」、そして、「企業・行政・NPOがパートナーとなり、次々と社会の課題を解決している世界」を実現していける。そう改めて確信した、最高の二日間になりました。

この素晴らしいネットワークとリソースからたくさんの知見と勇気を得て、これからもクロスフィールズはこの動きを加速していきます。

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