NPO法人クロスフィールズでは、 “アジア新興国への「留職」で企業人が掴んだものとは?帰国直後の留職者の生の声に迫る?”と題した第3回企業向けフォーラムを開催致しました。(当日のプログラムの開催概要はこちら)
第1部では「留職」経験者からの帰国報告と題し、インドネシアやインドへ「留職」経験をされたテルモ株式会社、株式会社ベネッセコーポレーションの方に、留職で得た経験についてお話頂きました。
テルモ株式会社 研究開発本部 開発戦略部 高橋光氏
私は今回、インドネシア・ジャカルタの低所得者層向けのクリニックを運営するNGOへ留職をしました。弊社は主に医療機関向けに製品を提供しておりますので、新興国での医療状況をこの機会に見てみたいと考え、この留職先団体を選択しました。
2ヶ月の派遣の中では、まず前半で現地の課題を理解するために、クリニックの患者さんや職員の方に対しヒアリングを実施しました。クリニックで見えてきたのは、「注射器の品質の低さ」と、「針刺し事故のリスク」という2つの課題でした。
そこでまず1つ目に対する改善策として、「注射器チェックシート」を作成しました。品質に関する項目を洗い出し、クリニックの職員が注射器を使用する前に確認すべきことを明文化し、品質確認の習慣化を促す仕掛けを作りました。
2つ目の「針刺し事故のリスク」についてですが、背景として、これまでクリニックにおいて、廃棄管理が徹底されておらず、使用済の針が看護師に刺さり、HIV/AIDSなどの感染症リスクが発生する可能性が出てきてしまっていました。それを解決するために、プラスティック製の容器への廃棄や注射器の使用後に針に安全キャップをはめる習慣を根付かせる改善策を提案しました。更に、改善策の単なる提案だけでなく、実際にクリニックのスタッフと共に改善策の実行もしました。スタッフを集めたトレーニングには、全員が積極的に参加してくれ、更に私の提案を踏まえて自発的に工夫を加えるなど、問題改善に向け努力してくれたことは非常に嬉しかったです。
留職中は、自社の理念でもある「医療を通じて社会に貢献する」とはどういうことかを常に考えていました。留職先団体のクリニックは、医療問題解決のためにクリニック運営という方法以外にもあるのではないかと常に考え、クリニック以外にも予防医療のプログラムや教育のプログラム等も実施し、広く医療に対する問題を解決しようと動いていました。医療問題解決=クリニックという固定概念ではなく、もっと大きな視野で課題解決を図るための方法を模索する姿は、医療問題に従事する一人として、とても考えさせられました。
私自身が留職で学んだものは、「自分で判断し・決断し行動することの大切さ」と、「リーダーシップの重要性」です。見ず知らずの土地に一人で滞在している状況では、自分自身で考え、行動しなければ何も動きません。それならば何でもやってみよう、挑戦してみようと思う意識を次第に持つようになりました。2点目の「リーダーシップ」に関しては、現地とのやりとりだけでなく、日本にいるチームとの連携からも考えさせられました。現地の考えを知る人間は自分一人しかいないからこそ、日本側に現地の状況をきちんと説明し、現地が考えていることをどのように伝えるかを日々考えていました。SNS等を通じ、社内の70名以上の社員ともリアルタイムで連携を取りながらプロジェクトを進め、全体をまとめあげる経験ができたことは、今後の仕事をする上でも、大事な経験になると思います。
また、短い期間ながら、現地に住んでいる人の考えや行動様式、文化、宗教についてのリアルな現場感覚を経験できたことも、今後、企業人として新興国でビジネス行っていく際の、大きな糧になると思います。留職を通じて得られた経験と学びを、今後の仕事にぜひ活かしていきたいです。
株式会社ベネッセコーポレーション 人財部 日裏賢志氏
弊社では、今後進出が見込まれる海外展開のために、半年間にわたる新興国の教育関連のNPOへの「留職」を2013年度から本格的に実施していきます。そこで、人事を担当している私が、まずはパイロット版として2012年度中に約1ヶ月間の「留職」を実施しました。
留職先団体はインド・チェンナイ。幼稚園・小学校向けの英語学習プログラム・教材の製作と学校への導入支援する企業でした。もともと創業者が自分の子どもに良い英語教材を届けたいという思いから始まった企業であり、弊社の創業経緯や理念との近さに親近感を持ちました。実際に携わったのは、実際にプログラムを提供する学校の授業の品質向上に向け、留職先団体が幼稚園・小学校に提供している導入支援の業務プロセスを分析し、品質改善のための実行プランを策定する業務に携わりました。
留職期間自体は1か月と短かったのですが、自分自身で手を動かし、現地の幼稚園・小学校を訪問して先生たちに話を聞くなど、実情を調査することに注力しました。それによってプロセスの全体像を把握して課題を洗い出し、経営者に対してなるべく事実に基づき納得してもらえるよう実現性のある実行プランを提言することを主眼に置きました。具体的には、主にサービスの品質改善のために必要な施策(教師の品質を定量的に把握する仕組み、教師のプログラムの資格認定制度、等)を提案しました。
今年から始まる本格的な留職を前に、私なりに留職を通じて経験できたことや学びは、「新興国という現場のフィールドに出ること」と「現地の人と分かり合うこと」の大切さです。
1点目に関しては、現地の小学校を6校ほど視察する中で、彼らの英語教育に対する情熱の高さは、日本よりも進んでいるとすら思いました。留職というフィールドを活用することにより、現地法人での勤務とはまた違う知見を得ることが出来ました。また、2点目に関しては、留職中は現地企業の一員となり業務を進めていかなければなりませんので、現地の人たちと関係性を深めていけばいくほど、実りの多い経験になるということです。幸い、今回の留職先団体の職員の皆さんは非常にフレンドリーで、業務をする際にも色々サポートを受けながら進めることができましたし、業務以外にも親交を深めることができ、現地の風土や食生活、宗教についてなどの話を聞けたことも、留職というフィールドでこそ実現できることだと思いました。
日本にいるメンバーとの情報共有も、FacebookなどのSNSを通じて日々行いました。留職の活動を通じて社内の他部署と横の連携ができましたし、普段あまりやりとりをしない部署同士が協力して提案やアドバイスができる形を組めたことや、日本国内で協力してくれたメンバーにとっても、海外のメンバーと協力しながら目標達成に向けて協力するといった海外ビジネスの疑似体験が出来た点も、よい成果だったと思います。
インドでのフィールドワークを通じ現地の実業や生の情報を経験出来ることや、日本側でも他部署と連携しながらプロジェクトを進められることは、たとえ数ヶ月の経験であっても、一般的な現地視察や現地法人勤務では得られないものです。現地の人たちとのネットワークも、将来のビジネスの土壌づくりとして今後意味が出てくると思います。こうした経験を踏まえながら、長期的な視野を持ちビジネスを展開していくことは、これからの企業において大きな意味を持ってくると思います。
第2部では留職プログラムの意義と題し、パナソニック株式会社の昨年の参加者の方から、1年を振り返ってのプログラムの意義について、次に株式会社ベネッセホールディングスの方から留職プログラム導入の企業における意義についてお話頂きました。
パナソニック株式会社 スペース&メディア創造研究所 山本尚明氏
私が留職プログラムに参加したのは昨年ですが、この1年間を振り返ってみると「失敗することが増えた」と思う1年でした。もちろん、それはただの失敗ではありません。これまで、挑戦することを自分自身がどこかで避けていました。しかし、留職を通じて挑戦に対するハードルが下がり、色々なことに挑戦しようと考えるようになり、その結果生まれた失敗なのです。挑戦をしなければ失敗もありません。いくつもの失敗を重ねながら得られる経験こそが、次の新しい挑戦に活かせることだという考えを、1年前の留職を通じて学ぶことができました。
私の留職先団体は、太陽光の熱を活用した調理器具を、電気やガスの通っていない地域に住む人々向けに、ガスコンロ等の代わりに製造・販売するベトナムの団体でした。(パナソニックの留職レポートはこちら)製品のコスト削減をしたいという現地の課題に応えるため、材料費や製造工数、重量などを削減できるプロトタイプを提案しました。提案したプロトタイプは、精度に関してまだまだ改良の余地はありますが、現地のニーズに応えるだけの提案ができたと考えています。
この1年を振り返りながら、私なりに留職を通じて感じたポイントを、主に3つあげます。
1つ目は、「現地のニーズを理解することの重要性」です。留職という短い期間の中で、自分が何を目標として設定すべきかということに答えはありません。だからこそ、現地のニーズを捉え、できる限りのリソースを使い、少しでも応える提案をすることが大事だと思います。
2つ目は、「日本と現地のギャップ」です。日本で考えた方法は、日本なりの視点で作られた方法ですが、それが必ずしも最良の方法とはいえません。考えた方法が、実は現地では有効でないこともありえます。逆に、現地だからこそ、日本では思いつかない方法を見出すこともありえます。課題を解決するためには、そうした認識の違いを理解し、柔軟に対応していくことが求められます。
3つ目は、改めて「自社について考えたこと」です。弊社は、かつての“電器”産業の会社です。つまり、電気を通じた暮らしの革新が根底にあることを、現地のNGOとのやりとりを通じて再認識することができました。留職をきっかけに、暮らしの中にある電気の器(うつわ)の可能性を最大化する意識を持てるようになりました。
こうした3つのポイントは、留職を踏まえてこの1年間を振り返りながら、留職で何ができたのか、何を経験できたのかを考えながら導き出せたものでした。今は留職から1年たった状態ですが、留職から2年を経ると、また別の何かが見えてくるかもしれません。
株式会社ベネッセホールディングス
グローバルソーシャルイノベーション部 部長 三木貴穂氏
ここまでの3人の体験者のお話は、リアルな経験を通じた報告で、企業側の人間としても期待した通りの経験をされていると思います。
では、なぜベネッセがこうした「留職」を本格的に実践していくのか。現在、ベネッセは国内教育などを踏まえた5つの事業領域を展開しています。その中で、教育分野においてはその多くが国内ビジネスです。しかし、今後少子化で国内の教育市場が停滞・縮小していくと予想される中、どう事業を展開していくか。そこで、海外展開は今後の大きな課題なのです。
今後の展開を考える上で留意すべきは、企業内における現状の問題点を把握することです。海外展開における問題点は、まず1つに社内の若手の人材育成は大事だと認識しつつも、現状は海外拠点も限られていることもあって、社内のグローバル人財育成プログラムが確立できていないことです。2点目は、国内環境に比べ、海外の事業環境を理解できていないことです。ベネッセが持つ事業ノウハウは、日本の教育制度やベネッセが持つ事業インフラを前提に成り立っており これをそのまま海外に持って行ってもうまく事業展開ができません。3点目は、モチベーションの高い社員の想いを社内で活用できていないことです。特に若手社員は海外志向の高い人も多く、個人でプロボノなどを通じて海外経験をしている者もいますが、そうした個人の活動を社内に活かす対応ができていません。さらに、企業においては失敗を許す環境が整っておらず、挑戦に対する萎縮でイノベーションが起きづらい構造にもなっています。
こうした問題を打開するためにも、事業基盤やインフラの不安定な環境で仕事をこなすだけではなく、新規事業を生み出す文化を作り出す経験ができる「留職」は、企業にとっていい刺激になれると認識しています。社会的な課題解決というイノベーティブな仕事にチャンジしている、突き抜けた現地のリーダーと働くことで、様々なものを学んできてもらいたいと思います。そうした考えをもとに、ベネッセは、派遣期間半年と事前と事後研修を踏まえた約1年のプログラムを実施していきます。
最後に、第3部では「留職」を通じて掴んだもの、企業における留職の意義についてパネルディスカッションをおこないました。
▼パネリスト
株式会社ベネッセコーポレーション 人財部 日裏賢志氏
テルモ株式会社 研究開発本部 開発戦略部 高橋光氏
パナソニック株式会社 スペース&メディア創造研究所 山本尚明氏
NPO法人クロスフィールズ 松島由佳
▼モデレーター
IMD日本代表 高津尚志氏
高津:
それぞれお話をしていただきましたが、このパネルトークでは、まず始めに留職での一番の達成感や手応えについてお伺いしたいと思います。
高橋:
現地の職員と信頼関係を築いたことで、現地の職員が自分の提案したものをしっかりと実行してくれたときに、達成感を感じました。そしてその結果、改善が見られた時はとても感動しました。異なる文化の人と関係構築を図る経験は、日本ではできない経験だと感じます。
日裏:
留職先団体での業務内容は、業務のモニタリング等の短期的な成果が見えにくいものが中心だったため、留職期間の1ヶ月の中で手応えを感じることは難しかったです。しかし、留職終了後に、派遣先から感謝の言葉と業務が改善されたという報告をいただいた時はとても嬉しく、その時はじめて自分の成果への実感が持てました。
山本:
留職最終日は、自分で作った製品のプロトタイプを実際に使うだったため、大学の卒業制作講評会に近い雰囲気でした。手応えよりも、実際に作った製品を使い調理できたことが、一番嬉しかったです。
高津:
3人とも短い期間で成果を出しています。クロスフィールズがおこなっている現地業務のお手伝いとは、実際にどういったことをされていますか?
松島:
留職期間中は、短い期間でかつすべてが万全では無い状況で、自分でゴールを設定し、それをやりきることが求められます。留職を通じて学びを得るためには、ゴール設定が重要です。ゴール設定を一緒に考え、留職終了まで定期的なコミュニケーションを図ることで、その達成をサポートしています。
高津:
実際に現地で大変だったことや、困ったことはありますか?
高橋:
日本メンバーとのやりとりの中で、日本でやりたいことと現地ができることに乖離があり、どう的確に状況を伝え共有していくかという部分です。最終的には日本のメンバーにも現地の実情を理解してもらい、それを踏まえて一緒に提案を考えることで、最終的には形にしていくことができました。
日裏:
最初の1週間は、派遣先から自分に対しての期待を上手く理解できず、何をすればよいかが見えませんでした。当然、留職先団体での業務はすべて先方がお膳立てしてくれるわけではありませんので、最初の業務のスコープ設定と、スコープや成果物について留職先団体と合意を取ることは、非常に難しかったですし、辛い期間でもありました。ただ、悩んでいるよりも自分自身で情報収集をしながら手を動かしていくことで、少しずつ課題を明確にすることができ、なんとか先方が納得できる内容を提案することが出来たと思います。
山本:
日本メンバーとのミーティングには、メンバーとして製品開発の技術者にも参加してもらい、一緒にアイディア出しや図面作成をしていきました。しかし、いざ作ろうとなった時に、現地にいる自分一人で本当に目の前の材料だけで作れるのか、とても不安になりました。結果的に無事にプロトタイプを作れたのは、とても嬉しかったです。
高津:
日本とのやりとりが問題になっていますね。ここで提示されているのは、グローバル化における本社と現地の衝突です。本社としては、標準化を図りたいが現地は現地のニーズや独特の環境がある。そのやりとりこそが、グローバルにおける障害だと考えられます。こうした意識の違いを、クロスフィールズはどのように考えていますか?また、どのようなサポートを行っているのですか?
松島:
留職者は、自分が今置かれている環境と、それを十分に理解しづらい日本のサポートメンバーとの感覚のギャップに少なからず悩みます。そしてそれを乗り越えようとすることこそが、このプログラムの価値でもあると考えます。
クロスフィールズは、留職者自身がリアルタイムに経験している現地の課題や悩みに直面した時の解決策を導き出すサポートも行います。留職者と共に現地にも同行しているからこそ、現地の状況も理解したうえで、時としてプロジェクトを進めるアドバイスもすることが出来ます。また、日本側のサポートメンバーともやりとりをしながら、チームメンバーが相互に理解し合う状況を作り出す補助の役割も担っています。
高津:
クロスフィールズのサポートに対しては、留職者のみなさんはどのようにお感じになられていますか?
高橋:
クロスフィールズのサポートはとても大きかったです。もちろん、悩みに対して答えを教えてくれるわけではありませんが、考えを整理してくれました。その結果として、留職の後半は、ある程度自分で考え対処できるようになりました。
日裏:
僕の場合は現地にいる留職者である自分がまず動き、考えて失敗を積み重ねていくことで、自分の学びが深まると思っていますので、むしろその愚直に積み重ねていくそのプロセス自体が大事だと思っています。とはいえ、現地の実情も知っている第三者(クロスフィールズ)に対して定期的に話をさせてもらうプロセスを用意いただいたことは、業務を振り返り、計画の修正に繋げることができましたし、自身の内省にもつながりましたので、非常に良かったと思います。
山本:
現地と日本とのやりとりで、クロスフィールズの人たちがクッションの存在でいてくれたのはとても助かりました。客観性の視座をもてるサポートの役割は、とても大きいと思います。
高津:
留職がひと通り終わった今、自分にとって一番の学びや成長したものを、1つあげるとしたら何ですか?
高橋:
私は「リーダーシップ」です。振り返ると、今回の日本のチームも含めて私は最年少でしたが、年代に関係なく自分の思いを行動に移して、メンバー一体となって行動できました。こうした経験を、若いうちにやれてよかったと思います。
日裏:
私は「巻き込み方」です。留職では、価値観が全く違う環境に飛び込まなければならない、いわばユニバーサルなコミュニケーションが求められる状況の中で、いかに自分の考えをロジックと事実をもとに組み立てることの重要性を実感しました。違った考えの相手に対し、自身の考えをいかに伝えるかを学ぶことができたと思います。
山本:
「挑戦することの敷居が下がったこと」です。留職はいわば挑戦の体験をさせる場所であり、挑戦したという経験があるからこそ、挑戦への苦手意識を克服できたことです。苦手を克服できたことで、周りからも変わったね、と言われるようになりました。
松島:
留職を通じて、どんな学びを得るかは参加者ご自身が決めることです。こちらで用意したものではなく、白紙の状態からどんなゴール設定をおこない、ゴールの達成に向けて進んでいくプロセスこそが大事だと、私たちは考えています。しかも、それを1人で進むのではなく、留職者の想いに共感して集まったメンバーと一緒に留職を進めていくことも、自身の学びが促進される大きな要因の1つだと思います。
高津:
これらの経験を踏まえて、今後自分の会社をどう変えたいですか?志や野望はありますか?
高橋:
私は元々企画の部署にいましたが、作成するレポートが数字だけで、まったくリアリティのないものだと感じていました。留職により、数字の裏にある現場を理解することができました。これからはもっと現場に出向き、リアリティをもったアプローチをもって良い製品を生み出し、会社を成長させていきたいと思います。
日裏:
大きく2つあります。1つは人事担当をしている身として、グローバル人材育成プログラムを、留職の経験をヒントにして発展させ、海外事業の成功に結びつけていければと考えています。もう1つは、インドの学校の先生たちの意識の高さです。現地で教育現場を視察した中で、多くの気づきがありました。その気づきを踏まえた英語プログラム開発にも携わる機会があればと思っています。
山本:
これからの企業は、現場のものづくりにどのように関わっていくかを考え、適切な役割をみつけて実践していくかが課題だと思います。だからこそ、留職で得た経験をもとに、現地でなければ生まれないものを、現地の人と一緒に作っていくことで新しい普遍的な価値がどんどん生まれると思います。現地、日本との境目のない感性で生まれてくるものに取り組みたいと思っています。
高津:
NPOやNGOのリーダーたちとの出会いは、留職者に大きな影響を与えるものだと思います。現地のリーダーはどんな人で、何を学びましたか?
高橋:
留職先団体の代表はとても親身で、私の成長も考えてくれる人でした。医療に対する熱意も高く、枠にとらわれず現地の課題を解決するためにどうすればいいかを真剣に考えていました。他のNGOも巻き込んで課題解決を図ろうとする姿勢は、多くの気づきや学びを得ることができました。地域のみならず、インドネシア全体の医療状態を良くしていくというその思いを、私自身も見習いたいと思います。
日裏:
彼はビジネスマンとしての経験が豊富であり、ビジネスセンスに非常に優れた方でした。英語教育という観点でインドの社会課題の解決に寄与していることはもちろんですが、一方社会課題の解決とビジネスというものをクールに結びつけて考えている人でした。自分の会社にとっても新興国での社会課題をどうビジネスに結び付けるか、というのは大きなチャレンジですので、社会課題に対してビジネスという手法で立ち向かう彼の経営の様子を間近で見られたことは、とても勉強になりました。
山本:
留職した団体の代表者は、自分たちの祖父の世代のような、独特な厳しさと優しさを兼ね備えている人でした。かつてのパナソニックの創業者はこんな人たちだったのではないか、と感じることも多くありました。そこから学んだことは、「社会に役に立つことを真剣に考えること」です。働くことの本質的なすばらしさを感じると共に、自分自身が社会に役に立つという思考が足りているかを考えさせられました。
松島:
途上国において、自分で事業を創り続けているリーダーは、常に真剣勝負の中で、情熱と覚悟をもって行動している人たちばかりです。 現地でどんなリーダーと出会い、現地でどんな仕事をするかで、留職で得られる経験はそれぞれ変わってくるからこそ、クロスフィールズも団体を選ぶときはどんなリーダーなのかを重視しています。
高津:
これからの社会をつくるリーダーをつくることをクロスフィールズはミッションに掲げていますが、これからの社会をつくるグローバルリーダーとはどんな人だと思いますか?
高橋:
これからのグローバルリーダーは、現地の文化や背景を理解し、考えの異なる人同士を結びつけて仕事をし、目標を達成する人だと思います。
日裏:
押し付けではなく、ボトムアップの組織の中で、まわりが努力できる関係づくりをしていける人だと思います。上からのトップダウン型ではない、うまい仕掛け作りをおこなうことが重要だと思います。
山本:
当たり前という前提を疑うことの大切さを、現地と日本とのやりとりの中で実感しました。様々な当たり前を疑い、その疑問に挑戦し続け、次の当たり前を作り出せる人が、グローバルリーダーなのだと思います。
高津:
このパネルディスカッションを通じて、2つの気づきがありました。1つ目はグローバルリーダーを再定義することです。これまでの日本人は、グローバルリーダーと言うと、真っ先に海外で働ける人とイメージするかもしれませんが、それは1つの要素でしかありません。 企業同士だけでなく、政府やNGOなど様々な分野の人たちと協働することが今後さらに求められて来る中、「グローバル」という言葉のもう一つの意味である「包括的、総合的」というイメージこそが、これからのグローバルリーダーに求められるものだと思います。
2つ目は、クロスフィールズの取り組みは「リバースイノベーション」を加速させることができる、ということです。新興国のニーズに基づいた商品を生み出すことで、先進国で放置されていたニーズを発掘したり、新たにニーズや市場を作り出すイノベーションへとつながる可能性が大いにあります。クロスフィールズの取り組みは、先進国と新興国をつなぎ、双方にとってのイノベーションを生み出す仕組みになりうるものなのだと感じました。
(執筆/構成 江口晋太朗)
・留職プログラムの導入にご関心をお持ちの企業のご担当者様
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